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東京地方裁判所八王子支部 昭和47年(ワ)496号 判決 1975年10月08日

原告

岩瀬(旧姓高橋)修

被告

栗本保夫

ほか一名

主文

一  被告栗本保夫は原告に対し、金一五一万八、〇〇四円及び内金一三六万八、〇〇四円に対する昭和四五年一一月二五日から完済までの年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告栗本保夫に対するその余の請求及び被告有限会社栗本左官店に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告栗本保夫との間に生じた分についてはこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、原告と被告有限会社栗本左官店との間に生じた分については全部原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し金一、三三三万二、六六一円及び内金一、二三三万二、六六一円に対する昭和四五年一一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故の発生)

昭和四五年一一月二四日午前七時四五分ごろ、東京都八王子市南大沢二二六三番地先路上において、神奈川県相模原市方面より東京都立川市方面へ向つて下り進行中であつた原告運転の自家用乗用車(登録番号相四せ一一―八八号)(以下原告車という。)と、立川市方面から相模原市方面へ向つて上り進行中であつた被告栗本保夫(以下被告保夫という。)運転の自家用乗用車(登録番号多摩五ぬ七一―〇七号)(以下被告車という。)とが衝突する事故が発生し、原告は負傷し、原告車も大破した。

2  (原告の被害状況)

(一) 原告の受傷 右股脱臼骨折等

(二) 治療 (入院)昭和四五年一一月二四日から昭和四六年四月一九日まで。

(通院)同年八月一四日まで。

(入湯治療)同年五月一八日から同年七月一五日までの間、四回。

(三) 後遺症 右跛行、股変形、運動制限(等級八級)。

(四) 後遺症の状況 右足は左足より六センチメートル短くなり、右腰は九〇度までしか曲らず、椅子に長時間座ることができない。便所使用も不便で時々激痛が生ずる。

(五) 原告車の破損 大破、廃車。

3  (責任原因)

(一) 被告保夫

本件事故地点付近の道路はカーブしていて前方の見通しが悪いから中央線を越えて対向車線に進入しようとする場合は、対向車の有無距離等十分に注意して安全を確認すべきであるのに、同被告は無謀にも安全を確認しないで被告車を運転して原告車が進行してくる対向車線に侵入した過失により本件事故を起したので民法第七〇九条による責任。

(二) 被告有限会社栗本左官店(以下被告会社という。)

被告車を所有し管理している保有者であるから自賠法第三条の責任、及び被告保夫の使用者であり、本件事故は同被告が被告会社の業務執行中に起したものであるから民法第七一五条の責任。

4  (損害)

(一) 積極損害

(1) 治療費 合計金四、二四六円

被告らから支払を受けたものを除き、昭和四六年五月一一日から同年八月一四日までの間に国立相模原病院に通院中に支払つた分。

(2) 温泉治療費、金四万六、九七〇円

医師の指示に従い前記のとおり四回にわたり山梨県下部温温に入湯治療を行つた際の宿泊費

(3) 入院雑費 金三万〇、四〇〇円

入院期間一五二日、一日金二〇〇円の割合。

(4) 交通費 金二万三、三三〇円

(内訳)

(イ) 原告が入院中昭和四五年一一月二四日から昭和四六年三月一四日まで原告の妻が看病のために自宅から相模原病院まで通つたバス、タクシー代金一万二、六九〇円。

(ロ) 昭和四六年四月二六日から同年七月一九日までの通院のためのタクシー、バス代金六、二四〇円。

(ハ) 山梨県下部温泉への往復旅費金四、四〇〇円。

(5) 家政雇人費 金一〇万四、〇〇〇円

原告に対する妻の付添看護中五二日間にわたり平田彦太郎に家事に従事してもらうのに要した費用、一日金二、〇〇〇円の割合。

(6) 物損 金二〇万円

大破廃車した原告車の本件事故当時の市場価格。

(二) 消極損害

(1) 休業損害 金八五万八、〇〇〇円

本件事故当時八王子市食肉処理場屠殺解体場屠殺解体業務委託人として勤務し、一か月少くとも金一一万円の収入を得ていた原告が、本件事故による入院、通院及び入湯治療のため昭和四五年一一月二四日から昭和四六年七月一九日まで七か月二四日間休業した間に逸失した収入

(2) 後遺症による逸失利益 金一、〇六四万六、六九五円

原告は、本件事故による後遺症のため昭和四七年四月一日から八王子市食肉処理場主事に身分を切換えて勤務しているが、その給料は本俸金五万六、七〇〇円、調整手当金四、八二〇円、合計金六万一、五二〇円であり、従つて右身分の切換により少くとも一か月金四万八、四八〇円の減収となつた。原告は昭和四七年四月一日当時三三才であつて、同日以降の就労可能期間は三〇年間である。そうするとその間の逸失利益は

48,480円×219.61006732=10,646,695円

である。

(三) 慰藉料

本件事故に対する慰藉料は、前記入院治療、後遺症等に徴すれば金二三〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人らに委任し、その着手金、報酬として金一〇〇万円を支払う約束をした。

5  よつて、原告は被告ら各自に対し、右損害金の内金一、五一六万六、六六一円から原告がすでに支払を受けた自賠責保険金合計金一八三万四、〇〇〇円(傷害分金一五万四、八八四円、後遺症分金一六八万円の内金)を控除した残額金一、三三三万二、六六一円、及びそのうち弁護士費用以外の金一、二三三万二、六六一円に対する本件事故の翌日である昭和四五年一一月二五日から完済まで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項(本件事故の発生)、認める。

2  同第2項(原告の被害状況)中、(一)、(三)、(五)は認め、その余不知。

3  同第3項(責任原因)否認。本件事故は後記主張のとおり原告の一方的過失により発生したもので被告保夫は無過失である。

4  同第4項(損害)、いずれも争う。とくに後遺症による逸失利益及び弁護士費用については、後記主張のとおりであつて原告の請求は理由がない。

5  同第5項、争う。

三  被告らの主張

1  (被告保夫の無過失ないし過失相殺)

被告保夫は八王子市南大沢の自宅から相模原市方面に向つて時速約四〇キロメートルで被告車を運転し本件事故地点に差しかかつたが、同地点は道路が湾曲していて見通しは十分でないのでギヤーをサードに落し幾分減速しながら道路中央付近を進行した。なお、この道路にはセンターラインはないので対向車がないときは中央付近からややその左側を走行するのが普通である。

一方、原告は時速四〇キロメートル以上のスピードで本件事故地点に差しかかつてきたが、同地点の約五〇メートル手前には「徐行」の標識があり(被告車進行側にはない。)かつ、本件事故地点の左側には退避可能な空地があつたのにもかかわらず、原告は前方不注視の過失により右標識を見落して減速を怠つたうえ、被告車の発見も遅れて転把、制動等の回避措置をとることもなく、原告車を発見して左へ転把して接触を避けようとした被告車の右側に衝突して本件事故に至つたものである。

従つて、本件事故の原因はすべて原告の前方不注視の過失にあり、仮に同被告に幾分の過失があつたとしても原告の過失の方がはるかに大きいから九割の過失相殺をすべきである。

2  (損害について)

(一) 後遺症による逸失利益

原告の身分切換は地位の安定、年金受給、退職金支給等の利点を考えての原告の希望によるものであつて、本件事故とは因果関係はない。

また、右身分切換によつて原告の業務内容は変らないし収入についても身分切換は新規採用の形式をとるため一時減少するが、数年を経ずして受託人当時を上廻るのであり、現に原告の受給額及び身分切換による利益はつぎのとおりである。

(イ) 昭和五〇年四月分給与額 金一三万〇、二三五円

(ロ) 昭和四九年期末手当等

六月 金三三万二、三六五円

一二月 金四四万四、四八二円

(ハ) 昭和五〇年期末手当等(推計)

六月 金三四万三、三七六円

一二月 金四五万七、五一五円

(ニ) 三七年勤続した場合の退職金 金八六五万一、三〇〇円

(ホ) 三七年勤続し七〇才に達した場合の年金 金八五万九、八八九円

従つて原告の昭和五〇年における収入は受託人当時のそれをすでにかなり上廻つているのであつて、これに退職金、年金の利益を加えると原告には後遺症による逸失利益は存在しない。

(二) 弁護士費用

本件事故後被告保夫は原告に対し円満示談解決を申入れたが、原告はそれには回答せず突然本訴に及んだもので、従つて被告らには弁護士費用相当の損害金の支払義務はない。

3  損害の填補

原告には自賠責保険金として、後遺症に対して金一六八万円、治療費として金五〇万円が支払われた。

四  被告らの主張に対する原告の認否

1  被告らの主張第1項(被告保夫の無過失ないし過失相殺)について

本件事故地点の道路にセンターラインがないことは認めるが、原告車進行側に徐行標識があるとの点は否認。被告ら主張の標識は何人かが勝手に設置したものであつて道路交通法上の標識ではないし、公安委員会による徐行地区の指定もない。

原告に過失があるとの主張については争う。本件道路は二車線分の幅員を有し、自車進行方向左側を進行する原告車の右側には被告車が通過しうる十分な幅員があつたのに、被告車はカーブを曲るに当つて外廻りになる自車車線を進行せず、対向車線(原告車車線)を内廻りしようとしたために本件事故が発生したのである。このような場合に原告が被告車との衝突を回避するために道路上から飛び出して道路以外の土地に逃げ込む義務はない。

2  同第2項、争う。

3  同第3項(損害の填補)について

原告が後遺症に対して金一六八万円の自賠責保険金の支払を受けたことは認め、その余は否認。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(本件事故の発生)及び本件事故により原告が右股脱臼骨折等の傷害を受け、そのため右跛行、股変形、運動制限の後遺症(等級八級)が残存すること、原告車が大破し廃車となつたことはいずれも当事者間に争がない。

〔証拠略〕によれば、原告は右受傷の治療のため事故当日の昭和四五年一一月二四日から八王子市所在の右田病院に入院し、さらに同年一二月一日相模原市所在の国立相模原病院に転院し、以後昭和四六年四月一九日まで同病院に入院(通算一四七日)、退院後も同年七月一九日までの間に少くとも四回同病院へ通院したこと、右通院期間中医師の許可をえて同年五月一八日から同年七月一五日ごろまでの間に三回にわたり山梨県下部温泉へ入湯治療に行つたことが認められ、また、〔証拠略〕によれば、原告の後遺症としては前記当事者間に争がないものの他、右足が左足より六センチメートル短縮し、長時間立つていたり、坐つていたりすると足が痛む、時々激痛がある、踞つた姿勢から立上ることが不自由である等の症状があることが認められる。

二  責任原因

1  被告保夫

〔証拠略〕を総合すれば、(イ)本件事故の発生した道路は幅員四・六メートルのアスフアルト舗装道路(本件事故当時はセンターラインはなかつた。)であり、制限速度は毎時四〇キロメートル(当時)原告車進行方向から見て(以下別段の指示がない限り原告車進行方向を基準とする。)左へほぼ三〇度ゆるやかにカーブし、僅かに下り勾配である。(ロ)右カーブ地点に至る道路の左側道路脇にはカーブ地点直前までかなりの長さにわたつて生垣が繁茂してカーブ地点前後の道路の見通しを遮つており、本件事故は右生垣が終つたところから約一九メートル進行した道路上、道路左端から〇・七三メートルの地点で発生した。(ハ)右事故地点付近には原告車及び被告車の各左前後輪のスリツプ痕が残されているが、原告車の左前輪スリツプ痕は九・四メートル、左後輪スリツプ痕は九・七メートルであつて左後輪スリツプ痕はほぼカーブの終了する付近(前記生垣の終つたところから数メートル進行した地点)の、左側路端から〇・五メートル内側の地点より始まり、本件事故地点付近の左側路端にほとんど接する地点まで達している。また、被告車のスリツプ痕は左前輪が六・〇二メートル、左後輪が七・七メートルで、後者の始点は左側路端(すなわち被告車進行方向から見ると右側路端)から一・三メートル内側の地点である。(ニ)本件事故における衝突により原告車は四・一メートル押し戻されて停止し、被告車は衝突後もさらに一・一二メートル進行して停止した。(ホ)原告車、被告車ともほぼ同じ大きさ(従つて重量も同程度と推認される。)であり、車幅は原告車一・四六メートル、被告車一・四八メートルである。

以上の事実が認められる。

右各事実及び〔証拠略〕を総合して認定する本件事故の態様はつぎのとおりである。すなわち、

(一)  被告保夫は被告車を運転して八王子市内の自宅から相模原市内の勤務先への通勤途上にあつたが、時速約六〇キロメートルで本件事故地点の手前に至つたところ、一台の対向車両が前記カーブを大廻りして被告車進路に侵入してきたので、スピードをやや落しハンドルを左へ切つてこれとの衝突を危く避けたが、右対向車の運転により冷静さを失つてハンドルを右に切りかえしすぎ、道路右側一ぱいまで突込んでしまつたので、ハンドルを左に戻したとき被告車の正面約一六メートルの地点に前記カーブを曲り終つた原告車を発見してあわてて急制動をかけたが間に合わず、道路右側(被告車進行方向基準)である前記事故地点で被告車の右前部と原告車の右前部が正面衝突した。

(二)  原告は、相模原市から八王子市へ向けて時速約四〇キロメートルで原告車を走行させて前記カーブに差しかかり、速度を毎時約三〇キロメートルに落して道路左側の進路を維持しつつカーブを曲り切り直線部分に出て自車進路が見通し可能となつた瞬間(見通しを遮つている生垣の終つた地点と原告車のスリツプ痕の始点との距離に空走距離を勘案して認める。)に、被告車がハンドルを右に切つて自車進路上に突込んでくるのを発見して直ちに左に転把するとともに急制動をかけ、原告車の左前輪が左路肩からほとんど落ちる程左に寄りながら滑走したが本件事故地点で前記のとおり被告車と正面衝突をした。

(三)  被告車と原告車の運転を比較すると両車のスリツプ痕の長さの相違によれば、被告車の制動の方が原告車の制動より遅かつたことが認められ、従つて被告保夫に原告車発見の遅滞が推認される。また、両車の衝突時の速度は被告車の方がかなり大きく(衝突後の両車の動き、ことにほぼ同重量と推認される被告車との衝突により上り勾配を四・一メートルも押し戻された原告車の動きによつて認める。)、同被告の制動遅滞による制動効果の相違を考慮に入れても、制動前においても被告車の速度が原告車の速度よりかなり上廻つていたことは明らかである。

以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告保夫には乱暴な運転をした対向車によつて冷静さを失つたためとはいえ、見通しの悪いカーブに差しかかる直前でハンドル操作を誤つて対向車の進路である道路右側一ぱいまで進出した重大な過失があるということができ、その結果本件事故が発生したから、民法七〇九条の規定にもとづき本件事故により原告が受けた損害を賠償すべき義務がある。

2  被告会社

〔証拠略〕によれば、被告車の所有名義は被告会社であり、責任保険等の保険金、ガソリン代等も被告会社が負担していることが認められる。しかし、〔証拠略〕によると、右所有名義は被告車を購入する際の下取り車の所有名義が被告会社にあつたためであり、真実の所有者は被告保夫であつてその余の代金の支払も全額同被告が行ない、時折、被告会社の代表者である栗本宥祉が使用することがあるが、日常は被告保夫が自宅と相模原市内にある勤務先セントラル自動車株式会社との間の往復に使用すること(本件事故も同被告が右出勤の途中で起したものであることは前記認定のとおりである。)が認められ、これに反する証拠はない。右事実関係のもとにおいては、被告会社に被告車に対する運行支配及び運行利益があつたとは到底いえず、従つて自賠法三条の運行供用者としての責任を負う理由はないし、被告保夫は被告会社の被用者でもないから民法七一五条による責任を負担するいわれもない。

三  過失相殺の抗弁について

原告に本件事故と相当因果関係のある過失があつたかどうかについて判断すると、前記認定の事実のほかに、〔証拠略〕によれば、原告車進路には本件カーブ地点にさしかかる手前に私製(八王子警察署、八王子交通安全協会名義)の「カーブ徐行」の標識があり、一方被告車進路には同旨の標識はなかつたことが認められる、しかし、右標識はもとより道路交通法にもとづいて公安委員会が設置したものではないから右標識があつたからといつて原告に直ちに徐行義務を課することはできない。もつとも私製とはいえ右のような標識が存在することは同地点が事故多発地点であることを警告しているものといえるから、それに即応した慎重な運転をすべき注意義務があるとはいえるが、前記認定の事実に照しても右カーブ地点における原告車の運転方法には特段の過失は認められないし、なかでも前方注視義務については、前記のとおり原告は左側の見通しを遮つていた生垣が切れた瞬間に被告車を発見していると認められるから右義務に欠けるところはないというべく(原告に比べてむしろ被告保夫に前方注視義務違反の過失が認められる。)、また、いかに事故多発地点であることが警告されていたとはいえ、カーブが終了して直線部分に入つた際、運転を過つて自車進路にいきなり突込んでくる対向車があることまで予想する義務があるとはいえないから、そのような車両があつた場合にハンドル操作により道路外へ退避できる程度まで減速する等事故発生を回避する措置を予めとらなければならない注意義務の存在もまた認めることはできない。

結局原告に過失は認められず、被告らの過失相殺の抗弁は理由がない。

四  損害

1  積極損害

〔証拠略〕により認定できる本件事故と相当因果関係のある原告の積極損害はつぎのとおり合計金三四万四、八八八円である。

(一)  通院治療費 金三、一二八円(〔証拠略〕による。)

(二)  温泉治療費 金四万六、九七〇円(〔証拠略〕による。)

(三)  入院雑費 金二万九、四〇〇円(一日金二〇〇円、一四七日間)(〔証拠略〕による。)

(四)  交通費 金二万三、三九〇円

(内訳)

(1) 家族付添通院交通費 金一万二、六九〇円(〔証拠略〕による。)

(2) 原告通院交通費 金六、三〇〇円(〔証拠略〕による。)

(3) 温泉治療交通費 金四、四〇〇円(〔証拠略〕による。)

(五)  家政雇人費 金四万二、〇〇〇円

(〔証拠略〕により認められる家族付添日数二一日につき、一日金二、〇〇〇円の割合。)

(六)  物損(原告車) 金二〇万円(〔証拠略〕)

2  消極損害

(一)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故前、八王子市食肉処理場と殺解体業務の受託人をしていたことが認められるところ、本件事故による入院中はもとより通院を必要とした昭和四六年七月一九日までは右業務受託がほとんど不可能であり、その間少くとも原告主張の七か月二四日間は収入がなかつたことが推認される。そして、〔証拠略〕によれば、原告の本件事故直前の収入は昭和四六年一〇月には金一一万五、七〇〇円、同年一一月には金一一万二、〇七〇円であつたことが認められるから、原告は本件事故日以後も一か月に少くとも金一一万円の収入を挙げることが可能であつたと推認できる。そうすると、原告は本件事故により金八五万八、〇〇〇円(四捨五入)の休業損害を蒙つたということができる。

(二)  後遺症による逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四七年四月一日付で従前の受託人の地位から職務内容に全く変更のないまま正規職員である八王子市主事として同市に採用(採用時三三才)されたことが認められる。同結果によれば、右採用の経緯については、原告は本件事故による傷害から回復した後、従前の受託人の勤務に復職したが、前記のような後遺症があり、一部に作業不能の分野も生じたものの本来の受託業務においては事故前とほとんど同等の作業が可能であつて、受託人の地位のままでも当面は特段の支障はなかつたが、後遺症の影響によつて将来作業不可能の事態が生ずることを考慮し、同市及び周囲からの勧めもあつて、身分が安定する同市吏員を希望して前記のとおり採用されたものであること、〔証拠略〕によれば、原告は吏員に採用された結果、右身分の安定のほか三七年間勤務して七〇才で退職した場合、退職金八六五万一、三〇〇円、年金八五万九、八八九円を支給される見込であることがいずれも認められる。しかしながら、いずれも〔証拠略〕によれば、右採用時である昭和四七年四月分についてみると、同月の原告の給与額は本俸金五万六、七〇〇円に諸手当が加算されても合計金六万三、〇二〇円であり、同年五月分以降も金七万円をやや越える程度であつて、右身分の変更は原告に一時的減収を招いたことは認められる。しかし、〔証拠略〕によれば、原告は右各月の給与のほか同市に採用されたことにより同年六月及び一二月に賞与を受ける権利を享受し、結局、同年四月から同年一二月まで九か月間に合計金九四万九、三七五円の収入があつたことが認められるのであつて、右収入は月額金一〇万五、四八六円に相当する。これに前記退職金の現在価値年額金一二万三、〇六二円(計算式後記のとおり)、(一か月金一万〇、二五五円相当)を加算しただけでも原告主張の受託人であつた場合の月収額金一一万円を優に越えるのであつて、同年以後についても身分切換に伴う利益をも考え併せた場合の吏員としての収益が、受託人のままでいた場合の通常の収入に劣ると認めるに足りる証拠はない。

従つて、原告の逸失利益請求は失当というべきである。

(法定利率による退職金現在価格計算式)

(a+a×0.05×36)+(a+a×0.05×35)+…+(a+a×0.05)+a=8.651.300 a=123.062(年額)

3  慰藉料

前記認定のとおりの原告の傷害の程度、入院通院期間及び後遺症に照せば、その慰藉は金二〇〇万円が相当である。

五  損害の填補

以上、本件事故により原告が受けた損害は合計金三二〇万二、八八八円ということになるが、原告が自賠責保険から後遺症に対する分として金一六八万円の保険金を受領したことは当事者間に争がなく、傷害に対する分として金一五万四、八八四円の保険金の支払を受けたことは原告の自認するところである。

そうすると、右損害中金一三六万八、〇〇四円については未填補というべきである。

六  弁護士費用

弁護士費用中、金一五万円を本件事故と相当因果関係にあるものとして認める。従つて右同額を被告は原告に対して賠償すべきである。

七  よつて、原告の本訴請求中、被告栗本保夫に対する請求については金一五一万八、〇〇四円及び内金一三六万八、〇〇四円に対する事故発生日の翌日である昭和四五年一一月二五日から完済まで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから一部認容し、その余の請求については失当であるから棄却し、被告有限会社栗本左官店に対する請求は失当であるから全部棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条を適用し、仮執行宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 國枝和彦)

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